家族信託と遺言書──相続対策を選ぶ

「親が高齢になってきたけれど、何から手を付けたらいいのかわからない」――相続相談の現場では、こうした声を耳にします。
財産をスムーズに承継し、家族間のトラブルを防ぐ代表的な手段が 家族信託(民事信託) と 遺言書 です。
本記事では、それぞれの仕組みと利点・留意点を比較し、どのような家庭にどちらが適しているのかを初心者にも分かりやすく解説します。
読み終える頃には「わが家はどちらを選ぶべきか」を判断できるチェックリストもご用意しています。肩の力を抜いて読み進めてみてください。
家族信託とは?──“生前から”資産を託して守る仕組み
家族信託は、委託者(財産の持ち主) が 受託者(信頼できる家族など) に財産管理・処分の権限を託し、その利益を 受益者 が受け取る制度です。信託契約を結ぶことにより、生前から財産管理をコントロールできる点が最大の特徴です。
主なメリット
- 認知症対策:委託者が判断能力を失っても、受託者が信託口口座を通じて資産管理を継続できる。
- 多段階承継:一次相続後の承継先(例:子→孫)まで指定できる。
- 相続手続きの簡素化:信託財産は遺産分割協議の対象外となるため、協議が長期化しても資産運用を止めずに済む。
注意点
- 初期コスト:公正証書作成費用や専門家報酬を含めて30〜60万円前後が目安(財産規模により増減)。
- 金融機関対応:信託口口座を開設できる銀行が限られ、手続きが煩雑。
- 運用ルールの設計:受託者の暴走を防ぐため、定期報告や監督人の設置を検討する必要がある。
遺言書とは?──“亡くなった後”に想いを託す伝統的ツール

遺言書は、財産の分け方や身の回りの希望を 遺言者の死後 に実現させるための文書です。民法で定められた形式として、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言 の3種類があります。
メリット
- 低コスト・手軽さ:自筆証書遺言なら紙とペンだけで作成できる(法務局の保管制度を利用する場合は保管料3,900円が別途必要)。
- 公的担保:公正証書遺言は公証人が関与するため無効リスクが低い。
- 柔軟な作成・変更:生前なら何度でも書き直しが可能。
留意点
- 無効リスク:自筆証書は日付欠落や押印漏れで無効になるケースがある。
- 遺留分侵害:法定相続人の最低取り分(遺留分)を侵害すると請求トラブルが生じる恐れがある。
- 認知症対策には不十分:判断能力喪失後は書き直しができない。
5つの比較ポイントで分かる両者の違い
| 比較軸 | 家族信託 | 遺言書 |
| 資産管理のタイミング | 生前から 管理・運用・処分まで可能 | 死後に効力発生 |
| 認知症リスクへの対応 | 判断能力喪失後も受託者が継続管理 | 成年後見制度の利用が別途必要 |
| “争族”回避効果 | 遺産分割協議を回避しやすい | 遺留分請求リスクが残る |
| 費用 | 初期30〜60万円+信託口口座維持費 | 自筆はほぼ無料、公正証書は数万円〜 |
| 手続きの負担感 | 契約書作成・銀行対応が煩雑 | 書式を守れば比較的簡単 |
家族構成・目的別シミュレーション

ケース1:高齢夫婦のみ(一次相続後の対策が鍵)
状況:夫が主な財産保有者。妻は認知症の兆候があり、夫亡き後の資産管理が不安。
推奨:家族信託(夫=委託者、妻=受益者、長男=受託者)として、妻の生活費を信託財産から支出できるよう設計。
ケース2:障がいを持つ子どもがいる
状況:親亡き後も子の生活を長期にわたり支援する必要がある。
推奨:家族信託+遺言書。信託で生活資金を段階的に給付しつつ、余剰財産の帰属先を遺言で指定。
ケース3:事業承継を伴う
状況:自社株を後継者に集中させつつ、他の相続人の遺留分にも配慮したい。
推奨:公正証書遺言。生前贈与や株価引下げ策と組み合わせ、遺留分対策条項を明記。必要に応じ事業承継税制も活用。
よくある質問
Q1:家族信託を結んだ後、受託者を変更できますか?
A1:契約書に変更手続きを定めておけば可能です。公正証書で再契約するケースが一般的です。
Q2:遺言書があれば必ず争いを防げますか?
A2:遺言内容が遺留分を大きく侵害している場合、請求トラブルは起こり得ます。理由を付言事項に記載する、生命保険で不足分を補填するなどの対策が有効です。
Q3:信託財産は相続税の対象外ですか?
A3:いいえ。受益者が死亡した時点で、信託財産相当額が相続税課税対象になります。信託契約自体に節税効果はありません。
家族に優しいのは状況に合った仕組みを選ぶこと

家族信託は 生前から 資産を守りながら承継先を柔軟に指定できる一方、初期コストと手間がかかります。遺言書は 低コストで簡便 ですが、認知症対策や二次相続の指定には不向きです。
家族の将来を守るための第一歩は、“知ること” と “動くこと”。早めの準備で、より“やさしい”相続対策を実現しましょう。
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